2012年11月24日土曜日

革命への教科書。「闘わずして闘う」


「どんな独裁政権でも自分で思っているほど強くはない

 どんな人民でも自分で思っているほど弱くはない」



ここに一冊の本がある。これは「数え切れない人々を独裁政権の抑圧から解放する手助けになった名著」だ。20年前に出版されて以来、30以上の言語に翻訳されてウイルスのように世界中に拡散した。

その著者はといえば、「とても過激派には見えない人物」。





彼はゆっくりと口を開く。

「機関銃で武装した兵士に向かって行進すべきではありません。それは賢いやり方ではないのです。もっと過激なやり方があるのです…」

固唾を飲んで、次の言葉を待つ一同。

「…街を、完全に沈黙させてしまうのです…」

男はささやくように声を潜める。

「…全員が家で沈黙するのです…」



彼の名は「ジーン・シャープ」。今年84歳になるアメリカ人だ。

彼に言わせれば、「独裁体制を転覆するのに最も効果的な方法」は「暴力ではなく非暴力」となる。ガンジーに代表されるような非暴力抵抗運動である。

「どれほど残酷な独裁政権であろうと、国民の指示なしには存続できない」。シャープの革命思想はこの「すばらしくシンプルな前提」に基づいている。



「政府に力を与えているのは、いったい何なのか?」

この問いにシャープはずっと向き合い続けてきた。それは「統治される人々」ではないのか。じゃあ、もし彼らが政府への協力と服従を拒否したら…。

突然、彼は悟った。

「その『支え』を取り払ってしまえばいいのだ!」



「闘わずして闘う」

この矛盾の中に答えがあった。それがシャープの非暴力闘争だ。この研究に没頭したシャープは、ウェブで900ページにも及ぶ解放の手引き書を公開した。

彼の研究を真剣に受け止めたのは平和主義者よりも「軍事関係者」だった。軍事に詳しい者ほど、シャープの説く力関係や戦略、戦術について深く理解できたのだ。



「暴力の他に民主化の方法があるはずだ」

ミャンマーの人々は、自国の軍事政権に対抗するために「20年間も戦い、人を殺してきた」。そんな彼らは、暴力の他に民主化の方法があると説くシャープの理論を聞いて仰天した。

感銘を受けたミャンマーからの亡命者の一人が、「自分たちのために何か書いて欲しい」とシャープに懇願した。そして生まれたのが、冒頭の名著「独裁体制から民主主義へ」だった。



この書は、ミャンマーの人々にとって「革命への教科書」となった。軍事政権下で暮らすミャンマーの活動家たちは、この本のコピーをこっそり交換して、隠れて読み回した。

この書を入手したミャンマーの独裁政権は驚愕した。じつに恐ろしい。まるでシロアリが木を食い荒らすようではないか…! 戦々恐々とした軍事政権は、この書を見つけるや禁錮7年という重い刑を活動家たちに課すことにしたほどだった。

この革命の教科書は、ミャンマーからインドネシア、セルビアへと独り歩きを始めて、ついには「アラブの春」に火を付けたとも言われている。



2009年にノーベル平和賞にノミネートされたシャープのもとへは、今も世界中から多くの人々が足を運ぶ。

「私たちの国はもっと酷い。抑圧がもっと激しい」

シャープのもとを訪れる人々は、一様に悲観的である。そんな訪問者たちに対して、シャープは「何をしなさい」とは決して言わない。ただ一つ気づいてもらいたいことがある。

それは、「どんな独裁政権も自分で思っているほどは強くないし、どんな人民も自分で思っているほどは弱くない」ということだ。



シャープと話をすると皆、何かしらかの「種」をまかれる。

そして、そこから新しい可能性が生まれるのだ…!





出典:COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2012年 11月号
「シャープ博士の『非暴力革命の教科書』を読む」

0 件のコメント:

コメントを投稿