2016年4月15日金曜日

有働アナの”美しき背中”



話:水野良樹(いきものがかり)






初夢を見るよりも先に、夢の舞台に立ってきた。昨年末の話だ。紅白歌合戦に出演した。





「間もなく本番です!」

スタッフの緊張感ある声がかかったところで、居並ぶ出演者の前に、ひとりの女性が音もなく、すっと立った。

とても美しい背中だった。

総合司会の有働由美子アナウンサーだ。









「あ、これが噂の有働アナの背中だ」

と、最初はなんとも間抜けなミーハー心で見てしまったのだが、すぐに目を話せなくなった。

とてつもない緊張感

が、そこから立ち上がっていたからだ。



ぶるぶると震えているわけではもちろんない。

むしろ静かで、凛とした佇まいだ。



何度か背筋を伸ばし、姿勢を確認。

音もしない咳ばらいを、二度、三度。

マイクをもち、幕が上がるのを待っている。



考えてみれば、その背中の後ろには、歴戦のスターたちが凄まじい存在感を放って居並んでいる。

かたや幕の向こうには、会場の3,000人の観客だけではない、TVの前の数千万人にもおよぶ視聴者が、放送を待っている。

そのあいだで、彼女は静かに立っていた。



今この人は、いったいどれほどの重圧を背負っているのだろう。

スターたちの先頭に立ち、その魅力を視聴者に余すことなく伝えるため、この紅白歌合戦を仕切らなければならない。

想像をするのも怖い。



幕が上がる瞬間、顔が少し上がった。

おそらく笑顔になったのだろう。

アナウンサーとしての真剣勝負にのぞむその背中は、ただ美しく、尊く、格好よかった。



イチローが打席にたつ姿も、

錦織圭がコートで相手をにらむ姿も、

白鵬が土俵で重々しく構える姿も、

エンターテイメントであろうとスポーツであろうと、勝負にのぞむその立ち姿は必ず

”絵になる”。



ただ立っているだけなのに、

もう勝負はついている。







引用:Number(ナンバー)894号 〝エディー後〟のジャパン。特集 日本ラグビー「再生」 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
水野良樹「強く、美しく」




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